- 遠野まごころネット - http://tonomagokoro.net -

OSABE 2013 冬の畑と鹿のお話

  左の写真、皆さんは何かおわかりでしょうか?答えは、陸前高田市上長部の集落で見られる、鹿の糞です。鹿に限らず、足跡や鳴き声など動物たちの痕跡は随所で見られますし、夜間に集落内に下りてくる鹿の群れも確認されています。

 上長部地区では、漂着した冷凍水産物や瓦礫撤去活動に始まり、累計で2万人を超えるボランティアさんの手で、被災農地の復興、製材所や公民館の建設など、地域コミュニティを取り戻すための支援活動が現在も継続されています(下図参照)。

 

 一方、陸前高田市における被災農地の復興は、表土の入れ替え工事が絡み、なかなか進んでいないのが実情です。

 そうした中で、復興した一部の農地に動物たちが群がり、食害問題が表面化してきています。

 昨年秋に小麦と菜種を作付けした復興ファームBは、表土の入れ替え工事のため、来春以降に作付け開始となる予定です。現在は、ファームAを取り囲むように電気柵(*)を敷設して営農を始めていますが、これでも充分な対策とはいえません。

  * 農地の周囲に、軽い感電ショックを与える程度に通電した電線を張り巡らし、動物たちの農地への侵入を防ぐ手立て。

 電気柵は元来性格の温厚な牛の放牧用に開発されたものですから、鹿のように大型で(体重が100Kgを越えるものもいます)、跳躍力があり、電気柵を認識する前に、押し倒すように突入してくる動物向きではないそうです。

漁網と有刺鉄線を利用したネット

 地元の更生会のお父さん方が見回り、補修を続けてくれましたが、毎日のようにどこかが押し破られ、お母さんたちのコミュニティ畑でも、大豆やサツマイモ、ニンジンなどの大半が食べられてしまいました(10月)。

 資金の関係で、電気柵が敷設できないところは、木柱を立て漁網を利用したネットを張って対応しました。鹿の侵入を食い止めるためネットを二重にし、さらに下部には有刺鉄線を敷設しています(ちなみに、木柱のための材の伐りだしから、漁網や有刺鉄線の敷設までの作業も、お父さん方のご指導の下、すべてボランティアの手で行われています)。

 鳥の害もすさまじいものがあります。種蒔きを始めると、畑の周囲にある森や林に、雀など200羽ちかい群れが集まって来ます。昨年の秋にも小麦を4反半ほど作付けしたのですが、鳥たちが芽吹いた若葉をついばんで引きずり出し、種を食べてしまいます。ほとんどの種が食害を受けたため、土中3cmほどの深さで再度蒔き直す必要がありました。

食害を受けた畑
(大きな株は最初に撒いたもの)

 農業復興がなかなか進まない被災地では、作付を始めた上長部のような地域が動物たちにマークされ、集中的な食害に見舞われます。さらに津波浸水域にあった住宅地が復興しないことも、動物と人間のテリトリー(棲み分け状況)に影響を及ぼしています。

 営農から産直・民宿の開業までを含む、上長部の今後の事業展開を考えた場合、電気柵だけでは獣害対策としては不十分と判断し、11月に「福井熱処理」(※)という会社を訪ねました。猟友会の方々と協力して、トウガラシを主成分に、イノシシや鹿、猿などが嫌う臭いを放つシートを開発し、鉄道(JR)や高速道路(NEXCO)沿線の獣害対策に実績を持つ会社です。

(※)http://www.fns-grp.jp/contents/environmental/ittan-stop/index.html

 忌避シートの開発者でもある社長の紙貴三雄(かみ・きみお)氏に直接お会いし、被災地の農業復興の現状をお伝えしたところ、次のようなアドバイスをいただきました。

 鹿の個体数については、福島から青森に至る広範囲な山々の被爆により、有害鳥獣の食料転用の道が閉ざされたことに加え、各地の猟友会員も被災し活動が止まっているため、被災前以上の増殖が認められること。鹿の特性については、目が悪く色盲であるため、電気柵の電線が細すぎて認識できないことから、赤色の帯状の忌避シートが開発されたこと。嗅覚が人間より優れていることを逆手にとり、トウガラシを主体とした忌避成分を加えることで、鹿の警戒心をかき立て、電気柵の前で立ち止まらせる効果を生み出したこと。鹿が、においと電気柵に触れたショックを学習することで、農地に入らなくなるという仕組みだということでした。

 鹿以外の鳥獣害に関するお話としては、人間が立ち入らなくなった福島の山で、イノシシとイノブタが野生交配しながら北上を始めており、猿たちの北上も始まっているとのことでした。

 こうした動物たちの移動現象は、他地域の動物たちのテリトリーにも連鎖的に影響を及ぼします。そして、やがては岩手の地にも到達するのでしょう。被災地での農業復興が、残留放射能の問題のみならず、様々な課題を突きつけられる厳しい状況下にあることを改めて痛感させられたひとときでありました。

 帰り際に、紙社長さんから「亥旦停止(いったんていし)」50枚 75m相当分を試験用にと無償でご支援いただきました。

けもの道に忌避シートを付ける

 復興ファームAの外周は500mほどあります。いただいた分の資材ですべてを囲むことは出来ませんが、電気柵との併用なので何とかなりそうです。紙社長さんの「付近の獣道(けものみち)をまず封じること」との教えに従い、お父さんと一緒に獣の痕跡を探します。足跡、糞、踏み固められた山の小径。山際に沿って確かに獣道が出来ていました。鹿たちは、このルートを巡って、ネットのほころびを探していたのです。ツアーで来ていたボランティアさんの手を借りて、早速、獣道とその周囲に「亥旦停止」を敷設しました(11/29)。

 

電気柵の効果で食害のない畑

 それで、効果はどうだったのか?12月下旬までの3週間の結果としては、電気柵が倒されることもなく、農地への鹿の侵入ピタリと止まっています。「亥旦停止」というネーミングどおり、鹿を電気柵の手前で止め、電気ショックを学習させる効果はあったようです。

 農地を見回るお父さんの表情もほころんでいます。立ちはだかる課題に一緒になって取り組み、ひとつひとつ解決していくこと。そして希望を生み出すこと。それが私たちの仕事なのだと、あらためて感じさせられた瞬間でした。

 

食べ尽くされた畑

 正月。上長部のお父さんから「菜種畑が大変なことになっている」と連絡が入りました。復興ファームCに作付けした菜種が、鹿の群れによって食べられてしまったというのです。

 この畑も気になってはいましたが、ボランティアさんが減少する冬に入っており、資金的な問題もあって、年内に電気柵の敷設まで手がまわらなかったのです。

 

 

残されたのは茎や根ばかり

 早速駆けつけてみると、見渡す限り茂っていた葉っぱはすっかりなくなっています。まったく見事な食べっぷりです。動物たちも生きるためですから容赦ありません。でもよく見ると、根や茎は残されているようです。これなら春に持ち直すかもしれません。それがだめでも、春蒔きの菜種を探し求める手もありそうです。

 

 

 

電気柵敷設の様子

 幸いなことに、公民館建設でお世話になった絆ベルリン様から、鳥獣害対策費用をいくらかご支援いただけるお話がまとまっていました(12/16)ので、とりあえず電気柵を敷設し、これ以上の食害を出さないよう対処して春を迎えることにしました(1/8)。

 

 ちなみに復興ファームBでは、その後も鹿の侵入は見られていません。効果の現れだと思われます。

 上長部では、復興ファームCに敷設した電気柵にも「亥旦停止」を導入し、春から作付け開始となる復興ファームAのための、鳥獣害対策の基盤を固めたいと考えています。

 

( 文責:遠野まごころネット 理事・陸前高田活動統括 齋藤正宏 )