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まごころネットのこれから:東京で「支援活動報告会」を開催(5)

9月11日、東京のJICA地球広場(渋谷区広尾)にて「遠野まごころネット活動支援報告会in東京」が開催された。このなかの第3セッションで、遠野まごころネットの多田一彦副代表が「まごころネットのこれから」と題してスピーチを行った。遠野まごころネットの活動が始まったいきさつや被災地の現状、そして今後に向けた展望など興味深いテーマが盛り込まれているので、詳細をご紹介したい。

 

活動の始まり。大槌町災害対策本部の3月13日の地図

*NPO法人遠野まごころネット 多田一彦副代表

 

(スライドに一枚の地図が映る)これは3月13日に初めて大槌町に入って、大槌町の災害対策本部で見た地図がこれだった。紙はにじんでぐちゃぐちゃ、どこに何があるのかも全然わからない。でも紙はこれしかなかった。それから伊勢崎君と毎日あちこちを走り回って情報を集めた。まず、地図を作ろうと。地図が出来上がったのが3月16日。16日に初めて災害対策本部にこの地図を拡大して、きれいに情報を記入して届けた。私にとっての遠野まごころネットは3月13日にこの地図作りを始めなければと思った時だ。

 

まごころネットの活動の基本は被災者と被災地のために、今必要なこと、今できることを実行する。そして、将来の生活や地域づくり、きっかけづくりのサポーターとなること。私たちは5つの活動をサポート体制として考えている。

5分野のサポート体制を構築する

 

①  基本的復旧サポート・・・がれき撤去、支援物資

②  個人サポート・・・生活支援センター、弱者救済

③  地域サポート・・・地域支援センター

④  起業サポート・・・雇用創出、まごころ弁当

⑤  検証サポート・・・津波・災害研究センター

 

 

まずは基本的復旧サポートで、がれき撤去や支援物資の配布など。2つめは個人サポート。現在は生活支援部隊が大槌町で弱者救済の活動を行っている。その次に地域サポート、そして起業サポート、検証サポートと続く。

地域のサポートとしては地域支援センターがある。例えば「大槌ハーブの郷」という構想は、川のほとりにハーブの公園があって、釣りをしたり、ボートに乗ったり、泳いだりしながらハーブ園を育てる。お母さんたちはハーブを何か商品化できればいい。そしてこれを地元の自治会長さんに先頭に立って頂いて、仮設住宅から被災者の方に外に出てきてもらって、これをみんなで作ろうというもの。今は、草刈りなどそのための準備を進めている。

また、「上長部まごころの郷」は、陸前高田市の上長部地区で(津波の被害が甚大だったため)腐乱したサンマで大変な状況だった場所。ここで何とかがれきやサンマを撤去して、ひまわりを植えて、野菜の種を植えて、今度はグランドやコミュニティホールを造ろうという構想。ここはがれき撤去からコミュニティづくり、復耕まで住民の方々と一緒に協力しながら理想的な形で作業が進んでいる。将来的にボランティアは姿を消して、かわりにボランティアだった人が毎年ここを訪れる。他の市町村と地域の交流の場となって、農業体験宿泊等もできればこの地域は良くなるのではないかと期待している。

 

大槌ハーブの郷の完成イメージ

上長部まごころの郷の完成イメージ

 

次に起業サポートでは、今度遠野駅前と大槌に「まごころ弁当」を出店する。被災者の方々に運営をしていただくことで雇用を創出する。現在、大槌社協の川端さんが「鮭プロジェクト」に取り組んでいるので、やはり最初は「鮭弁当」にこだわっていきたいと思う。通信販売なども検討しており、みなさんもぜひ遠野や大槌にいらした際には「鮭弁当」を食べて頂きたい。あと必要なのは、個人的なサポートだ。弱者の救済をやっていかなければならない。

まごころ弁当の店舗イメージ

被災地ではまだ誰もが目を疑うような風景があり、信じられない状況が続いている。もちろん、復興の兆しも随所に見られるが、多くの人はまだ記憶や心の整理ができていないのが現実だ。はたして記憶の整理と心の整理はできるのだろうかと思うことすらあり、できないかもしれない。せめて記憶を確認するのが精一杯なのかもしれない。記憶を整理して心を整理することはそう(簡単に)できることではない。頼る人もいなくなった。何かを考えても必ず同じところで思考が停止して、毎日がその繰り返しという人も多い。我々にできるのは一歩先に気持ちを進めてもらうお手伝い。これしか私たちはできないのではないかと思う。土を耕しながら、お茶を飲みながら、何かを作りながら、人が人を支える。みんなで少しだけ前に進む。そんなきっかけを作るために我々は5つの体制に分かれた事業をしているのかもしれない。

今、自立ということについてもう一度考えなければならない。みなさんは仮設住宅に入居したイコール自立したとみなし、支援等を打ち切るという話を聞いたことがあると思う。実際にそのような場合もある。しかし、自立とはどういう状態をいうのか。自立のための要素とはいったい何なのか。私は「衣・食・住・業(つまりお金)、そして自立する心」によってできると考えている。もちろん、全ての要素が揃わなければ自立といえないとは限らない。(すべてが揃わなくてもかまわないが)そのうちのいくつかの要素があったほうがいい。つまり、「住」があればイコール自立とみなすことはできないだろう。それだけでは自立はできない。記憶と心の整理は難しい。記憶の確認さえもできない人が多い。まだまだ自立のためにはたくさんの支援を必要としている。それが実態だ。

まごころネットが何のために事業を進めているのか、何度も考えることがある。被災地のなるべく多くの人が何かの事業に参加して、(まごころ広場うすざわのように)率先して一緒に運営に携わることで物事に集中し、少しでも気持ちを前に進めて生活ができるように、その手がかりや足がかりとなるよう、将来の起業や雇用の創出につながる可能性を信じてメニューを作っているにすぎない。それだけしかできていない。

まごころネット多田副代表

精神面や生活面で被災者や被災地のためにどの程度お役に立てているのかは、私たちには想像するよりほかはない。私たちは自己中心的ではなく、自己の名声のために活動をしているわけではない。その点を大切にしていくことがきっと被災地・被災者の方にとって良い活動となるのではないかと思う。今、本当に必要なことは、行政や社協、企業、関係機関、NPOなどが協力して体制を作っていくことだ。関係を大切にして支援活動を進めていくこと。官と民の境界や垣根、壁は限りなく無に近い方がよいと思う。そして時にはその境界は移動できるほうがいい。岩手県の行政は本当に今回の震災で重いダメージを受けている。そのなかで復旧や復興活動に全力を挙げている。状況を見ながら相互が歩み寄って協力していけば良い結果が出るのではないか。我々のモットーは「批判ではなく提案」だ。(お互いに)できる限りの協力をして一緒に活動していきたい。できることをできる団体が必要な時にやる。そしてそれを円滑に進められるようにみんなでバックアップする、そのような気持ちを持つことが大切だ。

まごころネットの力は小さくて弱いと思う。生活弱者の救済活動では本当にそのことを痛感している。現在、まごころネットの生活支援隊は大槌町で弱者救済班として見守り隊や生活支援の活動をさせて頂いている。活動の特性を考えると行政や社協などと一緒に協力してまごころネットとは別の組織となる新たな体制をつくって、みんなでケアしていかないと24時間体制でのケア活動は難しい。そして、大槌町以外の市町村でもなるべく早くそういう体制づくりをしていかなければならないと思う。

遠野まごころネットは5つのサポート活動とその担うべき役割をしっかりと念頭に置いて、今後も各関係機関、団体と協力して、みなさんの意見や提案を真摯に聞きながら活動を進めていきたい。今後ともよろしくお願いします。

(取材・まとめ:高崎美智子)

参考資料:遠野まごころネットの今後のビジョン(PDF)