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「天空の城」と電話機前から眺めたボランティア活動

<まごころ体験記⑨>

「天空の城」と電話機前から眺めたボランティア活動

  青森市 神 歴(じん・あきら)

目覚めると、自宅のベッドの上だった。天井が高い。 ルーフテントでの生活とクルマのドア開閉音のしない朝は、なんと平和なことでしょうか。 遠野まごころネットのボランティア事務局を、短期間だけお手伝いするという「誰にでもできるボランティア」をしたにすぎなかったのですが、帰宅してみるとその重みがじっくりと身体のあちこちから滲み出しています。

自慢の「天空の城」を搭載した愛車の前で笑顔を見せる

この3月。雪が降り続く青森での定年退職後5年目突入を目前に、続けてきたクルマでの「日本一周の旅」を今年で完結させようと、残った「中国地方」と「東海地方」を回り切る走行プランを練り始めていました。しかし、そんなさなかの3月11日、青森でも強い揺れとその後の停電が2日近く続き、それが原発事故をも含む大災害と知った時「今年の旅は中断する」と決めました。その後の被害の拡大は見ての通りであり、無策なる行政の人為的な被害拡大に、日本人としての魂の震えを感じたのです。 「何かできることをしなくっちゃ!」 とはいえ、サラリーマン時代にこじらせた右肩の「五十肩」の痛みが断続的に現われる役立たずの67歳。どうしたものか? と考えつつ「災害ボランティア」のネット検索を続けた末に、個人でも、参加期間も自由にボランティアを受け入れている「遠野まごころネット」を見つけたのです。

電話番の合間の至福の時?

 

決意を実行に変えたのは5月下旬でした。希望通りに現地作業以外の「内勤業務」にエントリーしていただいて、「受付業務」「館内清掃」そして「電話受付」などの作業を受け持ちました。往復の日程を含めて9日間のボランティア活動を実行して一旦帰宅し、1回目の経験をふまえて6月初旬に2回目の参加を決行。5日間の「電話受付」業務を担当させていただきました。「たかが電話番」と言うなかれ。IT時代と呼ばれる現代でも、ファクスやメールを使いこなせず、1本の電話でしか外界とつながりを持たない人もまだ多いのです。毎日、目の前の電話機が鳴り続け、ありとあらゆる「問い合わせ」や「連絡」や「苦情」が殺到する日々でした。たった1台の電話回線をたった1人で受け持ち「カスタマーセンター」であったり「インフォメーションセンター」であったりする席に、朝から晩まで座って電話応対していると、さまざまな問題点が「課題」となって浮き彫りになってくるのですよ。被災者の方々からのさまざまな生活支援へのご意見・ご要望 ・幅広い年代の方々と考え方をお持ちの「ボランティア希望者」の質問・ご要望・ご意見 ・支援物資などへの質問やご提案(しかし、真摯なお申し出ばかりではなく、支援する物資はある意味厄介払いなのかな? とも思える時もありました) 私なりの常識と経験で、対応させていただきましたが、喜ばれたり怒られたり反応はいろいろ。ちょっと疲れました。

 

電話の応対の合間に、事務局内を眺めているうちに「事務局の『体制』をどう維持しつつ、どう改善を図るか? そして、縦軸の「マネジメント」と、横軸の「コミュニケーション」を統合的に確立することが喫緊の課題であること。そのための情報システムをどう作っていくか真剣に考えなくては前に進まないな」。そう痛感しました。事務局を構成するマンパワーもまた「ボランティア」。全員が精一杯、「明るくもがいている」けれど、そろそろ「臨界点」に達しつつあるのが現状ではないかと危惧しています。 まごころネットは9日、新しい「事業計画」(―復興支援-遠野まごころネットのVision)を発表しました。つまりは「新らしい地域風土づくり」への積極的役割を担う、ということでしょう。遠大で素晴らしいこの構想を実現することが、素晴らしい三陸地域の新たな発展につなげていくことでしょう。いいですね!素晴らしい!着実に実行・実践し、将来への夢の実現に邁進するNPO「遠野まごころネット」の原点が「よりそうこころ」であるならば、必ずや成功への道を進むものであると確信しています。ほんの少しだけ参加させていただいただけですが、私のこれからの人生に「よりそえる場」があるとしたらここかな? うっすらとそう思いつつ、2度目の遠野を後にしたのでした。

車中泊ならぬ〝車上泊〟を無事乗り切ってVサイン

ボランティアの日々はあくまでも「自己完結」。まずは健康管理が第一でしょう。日々の食事への気配り、必要な「マルチビタミン」などのサプリメントもそれぞれに用意すべきですね。そして「睡眠」こそが健康維持の要です。2、3日ならともかく、高齢者の参加にはそれなりの工夫と実行力、そして周囲の「環境や他人に迷惑をかけない」。という意識と実際の行動は基本中の基本であると認識しています。「車中泊原則禁止」のまごころネットで、私の自慢の〝天空の城〟であるイタリア製「ルーフテント」での車上泊? 生活が、どのように見られるか? と心配していましたが、幸いにも駐車場を通りかかるみなさんからは、いつも好意的な励ましと、好奇心に充ち満ちたご質問をいただきました。しばらくの間、さらにお手伝いできることを探りつつ、体験の熟成を図りたい。そしてまた実行できるリソースとの出会いや、アイディアの具現化が可能となれば、再び遠野の地を訪れたい。「思いを強くすれば夢は実現できる」そう信じて生きてきた過去を未来につなげるべく、遠野での出会いに感謝し、再会を願っています。 ありがとうございました!

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◆神  歴(じん・あきら) 1944年(昭19)6月、東京生まれ。63年に日本電信電話公社(現NTT)に入社以来、東京で40年のサラリーマン生活を送る。06年に定年退職し、父の故郷の青森に家族で移住。以来「年金生活の旅人」となる。趣味は旅行、酒、料理、俳句など。