昨年のサッカーW杯南アフリカ大会で日本を2大会ぶりの16強に導いた岡田武史前監督(54)が29日、遠野市の市民サッカー場で、沿岸部の山田町と釜石市の子供たちを対象にしたサッカー教室を開講した。
4月から東日本大震災の各地の被災地を8回も慰問に訪れ、避難所などでチビッ子たちにサッカーの手ほどきを続けてきた岡田氏だが、岩手県への訪問は初めて。今回は岡田氏が主宰する「KICK OFF 未来 プロジェクト」の一環として、遠野まごころネットの構成団体でもある「公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が協力。まごころネットもボランティア3人を派遣して、3・11の大津波で大きな被害を受けた両市町の小中学生を遠野まで招待して実現した。
岡田氏の熱い思いが天に通じたか、前夜からの大雨は午前10時の開始前にピタリとやんだ。J1福岡や仙台などでもプレーした元日本代表FW山下芳輝氏(33)と、自身が札幌監督時代に選手だった元Jリーガー3氏とともに約2時間、サッカー未経験の子供を含む65人の被災地の子供たちに優しく語りかけながら指導した。「サッカーがうまくなるためには、この3つのことを忘れないでください。①サッカーを好きになる。②必ず夢や目標を持つ。③指導者の言うことを聞くだけじゃなく、必ず自分で考え、工夫してプレーする。いいですか?」と子供たちを前に力説した。岡田氏の呼びかけに応え、居住する福岡から参加した山下氏は「僕の妻も岩手県出身なんです。震災からずっと岩手の子供たちのために何かしたいと思っていました。とても喜んでくれたみたいだし、今回本当に来てよかった」と話した。
昨年のW杯での快進撃で、日本中に大フィーバーを巻き起こした「岡ちゃん」の懇切丁寧な指導に、集まった子供たちも感激の表情だった。教室終了後には、サインを求める長い列がいつまでたっても途切れなかった。今も家族全員で身を寄せている山田町の避難所内にあった張り紙を見て参加した近藤響樹君(山田南小3年)は「いつもはバスケット少年団だけど、岡田さんに会えてよかった。サッカーも楽しいです」と声を弾ませた。初めての岩手で大歓迎を受けた岡田氏は「僕らが想像もつかないようなつらい体験をしてきた子供たちを少しでも喜ばせ、励ましたいんです。僕ができることはサッカーを通じて、子供に笑顔にすること。子供が笑えば大人も笑顔になりますからね」とトレードマークのメガネの奥の目を細めた。岡田氏は、これからも継続的に東日本大震災の被災地の子供たちを対象にしたサッカー教室を開催していくという。