「ワカメはいいなぁ。」
そう呟きながら日焼けした皺だらけの両手で愛おしそうにワカメをすくい上げる。
2年ぶりとなるワカメの塩蔵作業をしながら漁師さんが漏らした言葉だった。
岩手県大槌町の吉里吉里漁港では3月末からワカメの塩蔵作業が開始された。
しかし人手はこれまでに比べ圧倒的に不足していた。
一度経営破たんした大槌漁協では、組合員が800名から180名にまで減少し、
これまで個人(あるいは家族内)で各々取り組んでいたワカメの作業も、
今年は共同で作業を行うことになった。
だが、それでも人手は足りない。
そこで漁協の組合長から声をかけられたのが遠野まごころネットでした。
民間ボランティア団体が営利活動を支援することについては慎重な議論がありましたが、
基本的に漁協を通じて依頼してもらい、民間の雇用を圧迫しないよう配慮しつつ、
地域産業再生の支援活動に取り組むことを決めました。
普段何気なく口にしているワカメ。
せっかくの機会なので、ワカメがどのように加工されているかご紹介します。
【作業工程~ワカメ編~】
1;ワカメを茹でる(1分程度)
↓
2:ワカメの冷却1(1分程度)
↓
3:ワカメの冷却2(1分程度)
↓
4:ワカメに塩をまぶす
↓
5:塩漬けワカメを大カゴ(3×2m程度)に小分けにして、平らに並べる
↓
6:(24時間ワカメを塩に漬け込む)
↓
7:塩を軽く洗い流す
↓
8:ワカメの茎と先端、各両端を切り落とす
↓
9:ワカメの葉をむしる(茎を切り落とす)
↓
10:機械で圧力をかけ脱水する
↓
11:脱水したワカメロールをほぐす(一個あたりの重さは約200㎏!)
↓
12:15㎏ごとに段ボール詰めをする
↓
11:出荷
このような工程を経て塩蔵ワカメは作られています。
これらの作業の中で、ボランティアが参加しているのは5と11の作業あたりでしょうか。
他に段ボールの組み立て作業などもお手伝いしています。
今年は漁業が様々な制約により満足にできないでいます。
そのような中で吉里吉里のワカメも値段が高騰し、普段の2倍。
15㎏で3万円ほどの値がついているそうです。
100gで200円程度と考えると、一級品と評価されていることは間違いないでしょう。
業者向けに出回る事がほとんどで、
なかなかお茶の間には流通しないこのワカメですが、
遠野のあたりだと遠野の道の駅「風の丘」で購入することができるそうです。
避難所時代の炊き出しなどで、
「ワカメは出来るだけ入れないでくれ」と頼まれたことがある。
そう仲間のボランティアから聞いたことがありますが、
炊き立てのワカメを食べてみて納得。
薄っぺらなそこらの乾燥ワカメとは比較にならないくらいにみずみずしく、
野生の歯ごたえと海の香りに満ち溢れた産地直送のワカメ。
これを食べて育った人からすると、
乾燥ワカメはあまり口にしたくないと言うのも当然ですね。
「ワカメはいいなぁ」と呟いたその言葉。
どんな意味が込められていたのか、ふと尋ねてみました。
震災により壊滅的な影響を受けた。
町や人だけでなく海もどうなったのかはわからない。
放射能の影響も気になる。
その中でなんとか資材をかき集め、共同でワカメの種を海に放った去年の11月。
半年待って収穫したワカメは評判もよく良い値がついた。
ワカメ加工は海とともに生きてきた三陸地方では春の風物詩。
雪の終わりの頃にワカメの収穫が始まり、
作業が落ち着く頃には桜が咲き、5月になる。
ただ、去年はそれができなかった。
そして、今年はなんとかこの塩蔵作業ができるまでこぎ着けた。
復興と言う果てしない道のりの中で初めての確かな手ごたえ。
これがワカメの収穫、そしてこの塩蔵作業。
普段は話しかけない限りは無表情で、無頼漢な海の男が、
少し涙ぐみながら、でも作業の手は休めずにこんなお話を聞かせてくれました。
ワカメ加工はもう旬を過ぎ、5月3日に少し遅い最終の出荷を終えました。
そしてこれからはウニ、ホヤと様々な海の旬の季節が訪れます。
我々ボランティアが出来ることには限りがあるものの、
可能な範囲で今後も活動を続けていきたいと考えています。
瓦礫が片付いたら終わり。
そうではありません。
今後も、もう少しの間こちらに関心を払っていただき、
見守り続けて頂けるとありがたく思います。
大槌町ボランティアコーディネーター
奈良 寿昭
めかぶの葉(?)の部分を取り除いた芯部分は廃棄するそうです。
海に指定の場所があり、ウニなどのエサになるようにするそうな。
ちょうどドラム型洗濯機のような機械で塩を絡めていきます。
普段漁師さんのみが担当するこの作業を、
ずっとワカメ作業に携わっていた長期ボランティアがさせてもらっていました。
作業参加者は皆、顔も含めて全身塩まみれになっていました。
漁師さんたちが黙々と作業に励みます。
気まぐれに冗談を言い合っていたところのワンショット。
お母さん方が並んで作業に臨む。
簡単そうにやっている作業も、皆熟練のお母さんたちだからこそ。
がぶりとワカメをつまみ食いをしたら物凄くからくて笑われてしまいました。
聞いてみると23%の塩分濃度だそうです。
23%ってのは結晶化する寸前の濃度だそうで…。
漁師さんたちより年上のボランティアに漁師さんたちもびっくり(笑)
自分に出来ることを探せば、案外転がっているものです。
出荷待ちのワカメたち。これひと箱(15㎏)が3万円!
岸壁のワカメを収穫するパフォーマンス。
採りたてのワカメと昆布をプレゼントしてくれました。
ボランティアが手にしているのがメカブです。