6月中旬に出穂・開花した小麦は、7月に入って褐色に色付いてきました。雀の大群もやってきています。陸前高田市の農地の多くは失われたままです。雀の楽園となる前に刈り取らねばなりません。一方、今回の小麦栽培は、育つかどうかさえ危ぶまれるなかで始められたものですし、収穫もどのくらいいただけるものかわかりませんでした。皆で手刈りするぐらい獲れれば……と考えていたものですから、思わぬ出来に慌てました。梅雨前に刈り取ってしまうには、コンバインが必要です。しかし陸前高田市では、コンバインをはじめ大半の農機具が失われており、手配が難しい状況下にあります。
以前、「何かあったら声かけてね」と言われていた遠野市の認定農業者協会の方、クボタさんに泣きつくことにしました。翌日、認定農業者協会会長さんが上長部までかけつけてくれました。そのすぐ後にはクボタさんまで来てくれて、うれしい限りでした。
実際には、雨の具合を見て作業を進めねばなりませんので、すぐにコンバインを出せるクボタさんにお願いすることになりました。
7月6日小麦刈り当日。午前中は晴れの予報でしたが、いつ雨が来るかわかりません。早速準備に取り掛かります!
今回は6反分の刈り取りをお願いし、残りの1反分を小麦刈りに出会えたイオン(株)さんで手刈りすることにしました。
小麦刈りで使用するのは、のこぎり鎌というものです。片手一掴み分の束を切り取るためには、のこぎり状の刃が必要となります。ただ、のこぎり状の刃ですから、うっかり手を切ろうものなら、傷口が塞がりません。まごころネットの農業担当スタッフから、鎌の握り方、小麦の掴み方、鎌の引き方など指導を受けていただきました。
横一列になって、刈り取り開始です。
手刈りをする分はハセにかけて天日乾燥させます。
一方、別部隊がハセと呼ばれる干し場をつくります。
刈り取った小麦を束ねて縛り、ハセに吊るすところまでが作業です。力を合わせて・・・丈夫なハセの完成です!
お昼を挟み、次第に慣れてきた様子。「さあ午後もやるぞ!」と右手にのこぎり鎌を持ち、再び小麦畑へ向かいます。
そこに、クボタさんの大型コンバイン(刈り取り機)と6名の社員さんが登場です。クボタさんのご支援は「eプロジェクト(http://www.kubota.co.jp/epro/)」という社会貢献活動の一環です。
褐色の海に、真っ白い大型コンバインが入っていきます。この機械は、一反歩以上の小麦を一度に刈り取ることが出来る優れものだそうです。オペレーターさん(操縦者)は、小麦の状態を真剣な眼差しで見つめながら機械を操っていきます。先日の風雨で小麦が倒れてしまった所は、ベテランがスピードを落として、ゆっくり、慎重に進めていきます。プロの腕前に圧倒された瞬間でした。
陸前高田の農地は狭いので、このような大型コンバインをいれることはあまりないそうです。今回はベテランの課長さんの指導で、入社一ヶ月の社員さんの操縦訓練となりました。
いろんなシーンが蘇ります。鹿の食害対策のために、ボランティアの手で小麦畑を電線で囲みました。
上長部のお父さん指導の下、高校生が丁寧に麦踏みをしてくれました。「麦踏みは共同作業だから男女でやると恋が生まれるぞ~」こんなお父さんの声が懐かしいです。
「小麦、肥料やらないとだめになっちゃうぞ」と言われ、慌てて計3回の追肥を行いました。
ほとんどのボランティアさんが農作業初体験。小麦畑に足を踏み入れたことのない人ばかりでした。「きっと上長部は一面金色になるでしょうね」「収穫の時期が楽しみですね」そんな声が聞かれます。
こうして上長部にお住いの方々と沢山のボランティアによる取組みによって、小麦は立派に育ちました。みんなで畑を取り戻し、みんなで育て上げた小麦です。
上長部の谷あいに、大型コンバインのエンジン音がこだまします。少し経つと「私たちが種を撒いたから、刈り取るところを見に来たんだよ」「若いころは手で刈ったけど、大変なんだよぉ」「機械は速いねぇ」……地元の方も顔を出してくれました。
刈り取った小麦は早速軽トラックに積み込み、乾燥に向かいます。同じ陸前高田市の竹駒町にお住いの農家のお宅へ。被災を免れた請負農家で、大きな穀物用乾燥機を3台もお持ちです。クボタさんが「上長部の小麦のために」と探してくださったお宅でした。
乾燥機に入れる際にはご夫婦もお手伝いくださいました。
前日まで雨が降り、水分を含んだ小麦はとっても膨らんでいました。38%もの水分を含んだ小麦でした。きちんと乾燥されるまで2日もかかりました。
開花と出穂が1週間から10日程遅れたため、無事に収穫はできるのか?という不安もありましたが、結果として、1,5tもの恵みをいただきました。
「繰り返し行ったボランティアさん達の追肥が良かったんだな」本当にその通りだと思います。肥料と一緒に愛情も撒いてくれたおかげでしょう。
「ピザ窯があったら楽しいね」早くも、こんな声が聞かれます。もう小麦が手元にあるんだから、あとはピザ窯があれば・・・こんな風に美味しい妄想も膨らみます。パンだってピザだって、なんだってつくれちゃう小麦工房が上長部に出来るかもしれません。
夏の終わりには、上長部公民館もできあがります。調理スペースでおがさんたちが小麦を使ったお菓子を作るかもしれません……
「けせん朝市に出せるかな?」上長部の夢はどんどん膨らんでいきます。
「商品になった小麦がきっかけで上長部を知った」なんて方が現れる日もそう遠くないでしょう。
人の手で始められた小麦畑。最後は、コンバインや乾燥機など機械の力をお借りすることとなりました。けれども、快く引き受けてくださった方々の心の温かみを感じました。
クボタグループの皆さん、乾燥をお願いした農家さま、イオン(株)の皆さん、遠野市認定農業者協会さんご協力いただきまして本当にありがとうございました。