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北上中学校、たねっこまくべぇ会へのよりそい

2012年11月19日  17時30分

9月21日、ザーザーと雨が降り続く中、陸前高田は下矢作に大型バスが3台やってきた。県内の北上市立北上中学校の1年生120人が約8haのひまわりの刈取りボランティアを行うためだ。ひまわりは「下矢作 たねっこまくべぇ会」によって蒔かれたものである。

 「今日は中止なんじゃないか?」と誰もが思った。それだけ、雨風が強かった。たねっこまくべぇ会の村上誠治会長の挨拶のあと、刈取り作業が始まった。合羽に身を包み、のこぎり鎌を手に、周りの友人と協力しながら少しずつ刈り取っていく。細い茎のものは一人でも刈れるが、大輪の茎は繊維が丈夫なため。水を含んだひまわりは大変重みがあり、バケツやポリ袋に入れて運送。刈り取ったひまわりをブルーシートの上に集めるが、すぐに山盛りに。先生や保護者のみなさんも一緒に活動し、一丸となって活動に取り組んだ。

       

「ひまわりの刈取りが本当に役に立ってるの?自分たちは震災復興のボランティアをしに来たのに・・・・・・」中学生は素直だった。村上会長の話を真剣な眼差しで聞き、一緒に刈取りを行なったボランティアコーディネーターたちにも、抱いた疑問をぶつけていた。「どこから来たんですか?」「いつからボランティアをしているんですか?」「ここにも家が建っていたんですか?」。事前学習では解かり得ない情報を自分たちで集めているようだった。ひまわりの刈取りをする中で「ここに津波が来たなんて想像できない。実際に今いる場所があの日海にのみこまれた場所なんだと思うと少しこわくなった」「テレビで見るだけでなく、実際に来てみないと復興の様子はわからない」。北上市は内陸部に位置するためか、同じ岩手県内とはいえ津波を身近に捉えていなかった生徒もいたようだ。

雨天のため作業時間を短縮し、大量に刈り取ったひまわりを持ち帰り、種の乾燥作業までお願いすることになった。ひまわりには泥も虫もついたまま。雨水をたっぷり含んでいるため、「ん~カビや腐敗は大丈夫かな?」と不安そうな声もあったが・・・・・・

学校ではひまわりの種との奮闘がはじまった。「どうしたら綺麗に乾燥できるだろう?」。まず、教室いっぱいにブルーシートを広げ、その上に刈り取ったひまわりの頭を並べた。ビニール袋でつくった自家製の“唐箕(とうみ)”で、埃を飛ばしたり、風を送る。窓一面に虫が張り付いていても、気にしない。「授業よりもひまわりの作業を進めたい!」と、とにかく夢中だったそうだ。

     

約1か月後の10月27日、北上中学校文化祭「北桜祭」があった。1年生の全5クラスから1人ずつが代表で「郷土いわての未来のために 今、自分たちが出来ること」というタイトルで全校生徒、保護者の前で校外学習スピーチをした。

地元の人が地元の人たちを笑顔にさせるために、ひまわりを蒔こうと考えたこと。そして咲いたひまわりがどれだけの人々を元気にさせたのか、村上会長から学んだことを発表した。「地元の方々が蒔いた種をみんなが繋いできた。ひまわりは希望を表し、ひまわり畑を通して人を笑顔にさせることの素晴らしさを学んだ」と胸を張って報告していた。「全国各地の人々が整地から種まき、刈取りまで支援してくれた」と伝えた。刈取りだけでも約700人ほどのボランティアが活動している場所。プロジェクターを用いて自分たちの刈取り作業風景も紹介した。

                   
 

また、D、E組は陸前高田市ボランティアセンター(以下ボラセン)を通じて、土地の整地作業やかさ上げボランティアを行った。石の掘り出し、砂利をバケツの中に入れ、運搬する少々ハードな活動。そしてこちらも同じく雨の中での作業。作業後は現地ガイドによる語り部があり、陸前高田市内をバスでまわった。市民体育館の様子は震災後と変わらず、ほぼそのままの状態にあることに言葉を失ったという。

1学年ルームをはじめとする各教室には陸前高田で見て、触れて、感じた体験を個人新聞にまとめ、壁にびっしりと掲示されていた。また、陸前高田市での活動や風景で印象に残った写真に、一人一人言葉を入れたパネル展示もされており、個性が光っていた。保護者の方々が「こんなことやってたんだ~」と話しながら丁寧に見て歩く姿が。乾燥した種も、ちょこっとここでお披露目。

            

            

 そして、11月9日、生徒と先生3名ずつ、計6名が種を持って下矢作に戻ってきた。段ボール3箱分、運ばれてきた段ボールからはカラカラと乾いた音が鳴り、持ってみるとずっしりと重たい。   

友達から「ひまわり主任」と命名された浜野君は、「『ボランティアは中途半端に終わらせない』と決めていました。ひまわりに一番精を出したのは僕です。ちゃんと会のみなさんに届けることができて光栄です」と作文を読んでくれた。今回の活動から「ボランティアは継続が大切だと感じた」と話してくれた。現在、北上中学校で計画しているのは、2世、3世とひまわりを育てていくこと。「『いつまでも忘れないように』と風化防止の意を込めて、また、ひとつの伝統としてひまわりを育てていきたい」と話してくれた。

      

 地元のお父さんに「こんなにきれいに乾燥してくれて嬉しいよ。うちにある分もやってもらいたいな(笑)」なんて言われていた生徒さんたち。それだけ見事な種に仕上がったのだ。地元のお父さん、お母さんたちは、自分の家の米の刈取り作業がなかなか終わらず、ひまわりの刈取りに参加できなかった。2年に渡り、たねっこまくべぇ会は、ひまわりの力で人々を笑顔にした。来年は、被災前のように水田に戻す。

                

今回の活動から学んだことは多かったようだ。被災を受けた町を復興に近づけるため自分たちになにができるか考えたり、ボランティアに対する意識も変わったという声が多かった。「自分たちのやったボランティアは小さいけど、ボランティア活動を通じて人と人との繋がりを学んだ」代表で種を届けてくれた生徒3人も、次第に緊張がほぐれた。会の方々も、自分たちが植えた種がこんなに中学生の実になったとは思わなかっただろう。

この数か月、中学生が校外活動でボランティア活動を行うことは珍かった。きっと様々なことを感じるだろうし、それが初めてのボランティア活動になる生徒もいるだろう。その年齢だからこそ気になったことというのはきっとある。今回の活動がこれからの生き方を考える一つの「きっかけ」になればよいのではないか。その「きっかけ」が被災地復興支援ボランティアだということだけで、震災は胸に生き続けるし、決して忘れることはないだろう。

瓦礫撤去のようなハード活動は、まごころネットでは終了した。が、こういった、人の想いを実らせる野外活動は増え続けている。これから、彼らとどんな未来を築き上げられるだろう。楽しみだ。

 

(取材班 山田エリナ)

 

「陸前高田市広田町大野地区のコミュニティ施設設営事業」は 「平成23年度(復興支援)被災者支援拠点づくり活動補助事業」の 助成金の補助をいただいています。