10月5日、遠野市にて「パーソナルサポート」に関する検討会が行われました。始めの50分はパーソナルサポート事業の生みの親である内閣府参与 湯浅誠 氏より、日本におけるパーソナルサポートの必要性や震災との関連などについての話をいただきました。続いてNPO、岩手県復興局などからも現状と課題について報告があり、最後に今後の実施に向けての意見交換が行われました。
「まごころネットが呼びかけたが、まごころネットの力では到底及ばないもの。みんなで一緒に考えて、みんなで一緒に体制を作っていこうという“呼びかけ”だとご理解いただきたい。」という多田副代表の言葉どおり、今後のサポート体制に向けてみなさんと歩んでまいりたいと存じます。
- 出席団体:(順不同)
- 内閣府本府、岩手県商工労働観光部雇用対策・労働室、遠野市役所、大槌町、いわて連携復興センター、これからのくらし仕事支援室、SAVE IWATE、市民会議(盛岡市議いせ志保事務所)、もりおか復興支援センター、被災地NGO恊働センター、SeRV東北、朝日新聞、自立生活サポートセンター・もやい、遠野山・里・暮らしネット、遠野まごころネット、ジャパンプラットフォーム
1.会議目的
既に仮設避難者、自宅避難者共に自死する方が出てきているが、そのような状況が連鎖的に起きることを防ぐために岩手県でパーソナルサポート事業として何ができるのかを関係団体と共に協議し、対応策の具体的な実施にまで繋げる。
2.パーソナルサポート事業について(内閣府本府参与 湯浅 誠氏)
パーソナルサポート事業コンセプト
- 医療・障害・雇用保険等、この国には様々なセイフティ―ネットがあるが、その制度で救われない人も多い。そういった人たちに光を当てていくのがパーソナルサポート。
- パーソナルサポートには個別的支援、継続的支援の2種類ある。
- 被災地で展開しているパーソナルサポートは震災前から始めていた貧困対策を震災の状況・環境に応用しただけ。仮設移転後の復興への基礎となる仕組みを目指している。
- パーソナルサポートは、社会から人がぬけていくことを防ぐ仕組み。パーソナルサポートにより状況が改善されると、それは社会の活力を高めることに繋がる。
我が国の貧困の現況と課題
- 現在の日本の貧困率は、16%。6人に1人が貧困で苦しんでいる。
- 雇用保険は失業者の2割しかカバーしていない。
- 従来個人を支えてきた、企業、家族、地域、私的なコミュニティが喪失し、“無縁社会”が到来している。
- 50、60代で孤立化していき、自殺に至る方の数が、世界8~9位と先進国でもワーストの部類に入る。
- 中高年は一旦働く場から外れてしまうと、どこにも居場所がなくなってしまう。
- “無縁社会”の中では、孤立した人がどこにいて、それが誰なのかもわからない。アプローチの仕方が課題。
- 生活保護のカテゴリーで障害でも、病気でも、母子でもない対象の方の割合が、制度の開始時期より、8%⇒16%と倍増している。
- 就学援助数は185万人にも達している。社会全体が地盤沈下している。
パーソナルサポート事業現行の課題
- ソーシャルワーカ等個別的支援は、対象者がその仕組みからぬけてしまったところで終わってしまう。継続的な支援に繋がっていかない。
- 個別支援では届かない領域がある。本来運用されるべきものが事務局機能の不備のために、きちんと運用されていない実情がある。
- 社会資源がない場所が地域によってたくさんあるが、ないからといってあきらめるのではなくて、事務局機能をつけていく。
- 電話相談では、相談に乗れる度合いが個々のケースで変わってくる。電話相談する人は同行支援までするのは必然。制度に乗りにくい人を相手に対応するのだから、時間と手間がかかるのは当たり前。
- 社会福祉法人、医療法人、民間団体、そういったところでなされているパーソナルサポートは実態が見えづらい。行政からも見えにくいため、支援の助成も対象者につなげづらい。結局、そうしたところはカバーされない領域となるので、最終的に社会問題を引き起こしてしまうところまでいく。負の連鎖がある。
震災と貧困の関係
- それまで何の問題もなく生活していたのが、家が流され、職場が流され、生活できなくなったことによって問題へと変質した。震災は貧困をあぶりだす。
- 仮設住宅に入っても、比較的若く、元気な方、立ち上がる力のある人からぬけていく。後に残された弱者が貧困化していく。
- みなし仮設に入った人たちは、街中に溶け込んでしまっている。そういった方たちへの支援のアプローチ方法が確立できず、貧困の連鎖を広げている。 (阪神のときには、みなし仮設で死者が233名でている。)
- 被災による生活弱者への救済を、ボランティアでやるのか、緊急雇用でやるのか、パーソナルサポートでやるのか、実情に応じて、既存の仕組みと組み合わせた対処が必要。
震災後の課題
- 被災地で被災者の孤立化を妨げるための事務局機能の設定が大きな課題。
- お茶飲み会から外の社会に出ていくきっかけがつくれない。
- 仮設でぶらぶらしている人が、毎日ハローワークにいって仕事を探しても、求人票が増えるわけでもなく、変わるわけでなく、ハローワークが行き場のない人たちへのたまり場と化してしまっている。
- 阪神の時との違いは、ローカル色の強さがもたらすコミュニティの強さがあるが、そこには2面性がある。強いコミュニティは、絆を生む一方で同一性を求めてしまう。結果、同化できない人が排除されることになる。また、地域の誰が何をしているのか情報が伝わりやすい息苦しさがある。
3.現状報告と共有事項、課題について
これからのくらし仕事支援室(吉田直美氏)
- 現状報告と共有事項
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- 岩手県内にパーソナルサポートの理念に基づいた推進センターを設置している。
- コールセンターで同行支援も行っている。
- 生活保護を受けなくては生活できない人が増えてきている。
- パーソナルサポート事業は今の事務局体制では2万人に1人の割合で支援していることになる。
- 課題
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- パーソナルサポート対象者が増えて難しくなった。
- 準生活保護の制度を利用する人がいる。給付型の制度があればいい。
- 人数が6人しかいないため、被災地全域のサポートができない。
- パーソナルサポートの仕組みが、年金や医療のような特殊専門業界につながることを危険視する声もある。
@リアスNPOサポートセンター(鹿野順一氏)
- 現状報告と共有事項
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- 自らも被災のために貧困に陥る可能性のある人間。続けてきたNPO活動に軸をうつすことで踏みとどまっている。
- 中間支援NPOとしては、メンタルの問題、DVや弱者対象のプログラムは踏み込むこともできず、他の団体に頼むしかない。
- 課題
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- 店舗建物のオーナーではないテナントでの商業者は、今の制度では助成が受けられない。
- 雇用者には手厚い助成があっても、雇用主側には何の手当もない。
- 被災者はそれぞれ内に抱えた課題がある。それが表に出てきている人は周りから見える分まし。問題は、周囲がその問題に気付いていない人たちのケアをどうするか。
- 専門家の集団ではないので、生半可な気持ちで取り組むこともできず、議論しても回答がでてこない。
- 被災地で収入を得る仕組みをつくらなくてはならない。
自立生活サポートセンター・舫(大関輝一氏)
- 現状報告と共有事項
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- 大船渡アクションネットワークを主催。6月から大船渡市に入り、支援団体、外部団体、保健師、病院、社協によるネットワーク会議を開催。
- 当初は、誰が何のサービスをしているのかみえない状況だった。現在では、関係性に柔らかさが出て良い連携ができている。
- 味の素の調味料セットを配布している。在宅避難者の方から250件以上の問い合わせがあった。
- 調味料セットは、在宅被災者の方にその存在を忘れていないことへの良いメッセージ発信となった。
- 被災地では、程度による被害のグラデーションがみられる。
- 北上市との提携により仮設支援員と、岩手県のモデル事業として生活支援相談員(ひだまり支援員)が入っている。
- 課題
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- 救援物資の配送、包括的な生活再建、支援団体同士で連携することが必要。
- 仮設に入っている被災者と在宅の被災者との間で、心理的対立がみられる。
- 市も支援物資や地域振興券を配っているが、在宅避難者には何もない。
- 行政の支援活動に法的根拠がない。
- DVや弱者救済等、専門性のある生活支援相談員の数が全然足りない。
- ○○支援員というように、種類だけが増えて、誰が何をしているのか、誰に頼めば必要な支援が受けられるのかわからなくなり、現場は混乱している。頭で作った制度では現場との繋ぎが足りない。
- 専門の支援員を育てる研修制度がない。
- 在宅避難者を可視化し、社会問題化して政策に繋げていかなくてはならない。
遠野まごころネット(臼澤良一氏)
- 現状報告と共有事項
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- 予想もしない津波で命以外全てを失くした。
- 大槌では1400人程の死者、行方不明者が出ている。
- 8月10日をもって避難所は閉じ、全て仮設にうつった。
- 緊急雇用対策であたえられた瓦礫撤去等の仕事しかない。雇用保険も明日、明後日できれる状態。
- お弁当を届けたり等、小さな寄り添い支援を続けている。
- 倉庫が壊れた、排水が目詰まりした等、様々な問い合わせによろず相談のように対応している。
- 2時間も寒いところにおばあさんがきて座っていたこともあったがそういう人にボランティアは寄り添っていっしょにいる。
- 課題
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- 街全体が流され就労の場がない。
- 仮設入居者が買い物難民になってしまっている。往復タクシーで6000円、仮設居住地からバス停留所まで、2、3キロ歩かなくてはいけないことも多い。
- 自立の名の下に8月10日に仮設に入り行政の指導下に入ったが、そこから苦しみが始まった。既に苦しみから3人の人が自死している。
- ボランティアとはなんなのか、寄り添い支援を続けるなかでわからなくなってきた。
岩手県復興局(藤沢 修氏)
- 現状報告と共有事項
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- 行政を被災地で生かしていくために助成メニューの制度情報を知らなくてはならない。
- 課題
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- 生活支援者として地元の人の雇用を進めているが、運用上うまくいっていない。
- 寒さ対策。仮設の中の暖房措置、道路の除雪、凍結防止をどう進めていくか。ソフト面での支援も課題。
4.電話相談・同行支援・パーソナルサポートをどの様に実行するか。
岩手県商工労働観光部雇用対策・労働室
- 側面支援はしていくが、パーソナルサポートを増やせばいいというものではない。現場、現場で繋げて専門機関に繋げていけばいい。パーソナルサポートは手法であって、それに沿った支援メニューを組めばいい。県と社協の協力で、生活相談支援員も設置している。たとえば、沿岸部で問題のある方を発見したら、盛岡に連絡をすればいい、そういう繋ぎをしていく。
- 限られた予算しかない。今ある地域の力をつかって進めていく。計8カ所のセンターの設置を目指して進めていく。
会場からの意見
- パーソナルサポート担当者は何人もいればいいものでもない、という話であったが、現場では全く足りていない。寄り添うことがパーソナルサポートの原点のはずなのに、2万人に1人のパーソナルサポートでは、いつ被災者の心が折れるかわからない。
内閣府本府
- パーソナルサポートセンターの配置基準はない。昨年度の予備費で1億3千万円ある。今の第三次補正予算で積み増しの要求をしているが、それが通れば、新規で何カ所か設置できる。緊急雇用基金にぶらさがる形で、若年層にも対応できるように、事業内容の組み換えを今年度から始めていく。
- 重要なのは、制度の箱ではなくて機能。滋賀県の野洲市では、就労支援相談員を雇っているが、そちらではなくて、既存の農業委員会の方が、米を取ってきて配ったり地域になじんでうまく機能している。市役所は基本的に、ワンストップ。継続的な支援活動には結びつかない。パーソナルサポートでは誰もこぼさない、そういうことはできなくはない。
- 地域の中の隙間を掘り起こすと仕事が増える。抽出して形をつくる、事務局機能を設置していかなくてはならないが、官か民か、ではなくて、機能をどうつくっていくのかに着目する。地域の包括支援センターもあるが、多くの場合進まないのが現状。関係者が集まった協議会もあるが形式的である。組織の自主性を高めていきたいが、そのための仕組みは電話相談も含め多ければ多いほどいい。パーソナルサポートが足りないところでは、生活支援相談員の機能を拡大させることも考えられる。
5.今後の活動方針について
- こういう制度があったらいいね、で終わる会議にしても仕方がない。コアになる提案をしていかなくてはならない。
- 相手の活動を認めるというスタンスで作り上げることが必要。枠があるなら、その枠を認めて、そこからはみ出した部分をみなでどうするか考えていけばいい。
- コールセンターは来年の3月から始まる。電話をするだけではだめで、継続支援をどうサポートして、情報共有していくのか。大船渡で起きたことには対応しているが、それは良かったのか、どういう反省点があるのか。検証していかなくてはならない。
- パーソナルサポート実施のための研修プログラムをつくって調整をしていく。個々の就労にあった生活相談に繋げセーフティーネットをつくっていく。
- 支援内容そのものにプライオリティをつけていかなくてはならない。
6. 講評と感想(内閣府本府 湯浅 誠氏)
- 大きな災害により支援が必要な地域が拡大してしまった。しかし、悪いことばかりではなく、今後については、国からの補助金、パーソナルサポートについては、県に積まれた基金を活用する形で、民生委員や生活相談員等地域の人と相談しながら進めていく。支援員数だけが増えていく、○○支援員問題とならないように、いかに協働してやっていくか、現場での対応力を高めていく。地域のあり方がそれぞれに違い、一概にベストと呼べるものはない。引き続きできる限り協力はさせて頂く。
(議事録:ジャパンプラットフォーム 高橋郷)