後半はパネルディスカッションです。「災害発生時における地域力の発揮」と題し、コーディネーターの吉井博明氏とともに4名のパネリストが活発な議論を交わしました。吉井氏は災害情報論・情報社会論の専門家で、神奈川県の地震災害対策検証委員会においても座長を務めていらっしゃるそうです。
今回の討議で主な焦点となったのは、①自助と共助、②支援者と受援者、③避難所運営の3つ。遠野まごころネットの多田代表が語った「避難所で物資を扱う人やリーダーは権力者ではない」という言葉には、避難所運営の難しさや残された課題が凝縮されているように感じました。少々長くなりますが、以下にパネルディスカッションの要旨をまとめましたのでご参照ください。
■パネルディスカッション
コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケーション学部教授)
パネリスト:植山利昭氏(神奈川災害ボランティアネットワーク代表)
多田一彦氏(NPO法人遠野まごころネット理事長)
永井雅子氏(神奈川県保健福祉局保健医療部健康増進課技幹)
森 清一氏(秦野市はだの災害ボランティアネットワーク副代表)
■自助・共助のためにできること
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
今日のテーマは東日本大震災の教訓を踏まえて、地域で防災力を強化するにはどうしたらよいのかということ。公助は小さな災害の時ならばよいが、大災害の場合は行政そのものや職員も被災してしまうため、普段のようなサービスができない。そのような状況のなかではどうしても自助・共助が必要にならざるを得ない。自助・共助について気をつけなければならない点とは?
―――植山利昭氏(神奈川災害ボランティアネットワーク代表)
自分が住んでいる町がどのような町なのかを良く知っておいたほうがよい。災害のことを考えると自分たちの町がどういう経緯でできたのか、地名など必ず先人からの言い伝えはあると思う。防災マップ作りのために町歩きをするのもひとつのやり方だと考えている。
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
まずは、災害時における地域の弱点を知ること。例えばがけ崩れや液状化しそうだとか、建物が密集して火災が起きそうだとか、そういうことを知るために町を歩いたり、昔の地名や昔の地形を調べてみる。一方で、そのような視点で町を歩けば災害時に資源として活用できるもの、例えば海岸付近でいざという時に逃げ込める高層マンションなどがわかる。今までと違った町が見えてくるだろう。
―――永井雅子氏(神奈川県保健福祉局保健医療部健康増進課技幹)
避難所では毎日3度の食事を取ること自体も厳しかったが、人数分の大量の料理を作ることはなかなかできない。自宅で家事ができたとしても100人分の味噌汁を作るならばどの程度の味噌を入れ、野菜を入れて作ればよいのか想像がつかない。日頃の訓練のなかで炊き出しなどを経験してイメージ化することが大切だ。大槌町にある5ヵ所の避難所を巡回していた時にも地域で活動していた人たちが中心になって、食材を上手に使って調理をスムーズに行っていた。
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
普段から災害関係の団体でなくても地域で活動していると、避難所運営の面でも役に立てることがありそうだ。
―――森 清一氏(はだの災害ボランティアネットワーク副代表)
自助といえば、自宅の家具の転倒防止をしたほうがよい。やはり自分が寝ている場所や普段過ごす場所は家具の転倒防止をしておかないと、(災害は)いつ来るかわからない。自分がけがをしたら手伝いも何もできなくなる。運が悪いと(転倒した家具のために)亡くなったり、非常持ち出し品や備蓄品が使えなくなる。昭和56年以前に建てた家に住んでいる方は耐震診断を受けて耐震補強を行うことをおすすめする。自分が生き残るということが一番大切なことだ。
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
家具の転倒防止については内閣府も一所懸命に力を注いでいるが、なかなかうまくいかないようだ。さほど費用はかからないのだが、家具の転倒防止は面倒だとか、家具に傷がつくことを嫌がるケースもある。家具の転倒防止対策はぜひ今のうちにみなさんにもやっておいて頂きたい。(地震で)けがをする人の半数程度は家具が原因だ。今回の震災では家具の転倒によるけが人はそれほど出ていないが、神奈川ではそうはいかない。
■支援者の立場、受援者の立場
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
多田さんにお伺いしたいが、被災地で外部の支援を受け入れるなかでこれはとても役に立ったということと、少し的外れだったということは?
―――多田一彦氏(NPO法人遠野まごころネット理事長)
基本的に全部がありがたい。ただ、自分たちの活動での競争や団体の自己満足のために支援に来るというのは何かと大変だ。大事なことは現地に何が必要かということ。(お互いに)何でも話し合えばわかるし、必ずいい形で協力ができる。そこのところが一番(重要)だ。
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
どうやって普段からネットワークを作るか、あるいはコーディネーターの基礎的な見地からは何をやったらよいのか?
―――永井雅子氏(神奈川県保健福祉局保健医療部健康増進課技幹)
私たちも現地に行って感じたことだが、多くのボランティアや支援者の方がいらっしゃっていると、ひとつの避難所のなかで重複するような場面もある。(永井さんが派遣された地域の場合)保健衛生の部門では保健所がコーディネーターとして機能して、釜石保健所がそれを調整してくれた。しかし、地域におけるボランティアたちのコーディネート力はもっと様々な部門で必要だったのではないか。ボランティアの派遣も一部調整は行われていたと思うが、どこの避難所に何が必要かという情報の収集はおそらく難しかったのではないかと思う。避難所によってそれぞれニーズは違っていた。
―――植山利昭氏(神奈川災害ボランティアネットワーク代表)
普段から私たちも災害時にやることというのはある程度、カリキュラムを組んでいろんな形で話を進めているが、平常時にどういうことをするか。都市部、特に川崎や横浜に住んでいるとなかなか地域の方との連携は難しい。町内会がしっかりしていればそれなりに動けるが、新しい住民が増えると町内会という形では難しい。新しい方法や訓練のやり方を少しずつ変えてみるなど知恵を出し合うことも大事だと感じている。
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
森さんにお伺いしたいが、支援する側からどうやって地元のニーズを引き出してマッチさせたらよいか?逆にもし秦野市で災害が起きた場合に、自治防災組織や町内会などが受けてとしてまとめて「ここにこういう支援をして欲しい」というような、受援者側のコーディネートはどうやったらできるのか?
―――森 清一氏(はだの災害ボランティアネットワーク副代表)
秦野市の場合、秦野市と秦野市社会福祉協議会、はだの災害ボランティアネットワークの3者が年に一度災害ボランティアセンターの立ち上げ訓練をやっている。始めてから5年ぐらいになる。ボランティアコーディネーターは我々がやる。ボランティアは近くの自治会や中学生など一般の方を集めているほか、ここにいらっしゃる防災士やセーフティリーダーの方など県内の他のネットワークにも呼びかけて(訓練を)やっている。これは我々だけでなく、他の市や町にある災害ボランティアネットワークも普段からボランティアセンターの立ち上げ訓練に取り組んでいる。マニュアルも策定してあり、県内で統一した帳票を使っているのでたぶん問題ないと思うが、かかわっている方にご高齢の方が多いことがちょっと心配だ。
■避難所でのリーダーシップとは
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
実際に被災地のなかで支援を受ける側としての心構えは?
―――多田一彦氏(NPO法人遠野まごころネット理事長)
一次的な段階は道路だ。(道路が不通ならば)物資を持ってくることができない。特に大槌の道路はぐちゃぐちゃだったので、3月11日から住民たちで道路の片付けを始めた。もちろんご遺体もある。とにかく2日間、寝ないで道路を片付けて(支援の)受け入れ態勢を整えた。次に自分たちの避難所にどのような人がどのような状況でいるのかをきちんと把握することが重要。そうするとどのような支援が必要かということがわかる。
そしてこれは検証してビジョンや制度を作っていかなければならない部分だが、避難所で物資を扱う人やリーダーは権力者ではないということ。お世話をすると疲れてくるのだろうが、その人の主観だけで(物資が)いるとかいらないということを判断するケースが出てくる場合もある。それが権力者を作ることになってしまう。リーダーになる人が権力者にならないようにするための訓練をして頂けたらいいのではないかと思う。そうすると必要な物を届けられることにもつながる。
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
避難所がひとつの社会になって、その社会のリーダーになることで一時的に権力者になるおそれがある。謙虚な気持ちを持たないと独裁者になってしまう。(避難所運営にあたって)最初の段階は何でもどんどん決めていかなければならないため、独裁者になるのもやむを得ないだろうが、ある程度落ち着いたら民主主義の社会に移らないといけない。
―――多田一彦氏(NPO法人遠野まごころネット理事長)
いい民主主義は善良な独裁者が作るのかもしれないが、やっぱり(一人だと)疲れてくる。一人ではなくサポートをつけながらチームでそれを実行する、弱い立場の方の声を必ず拾うような訓練をして頂けたらと思う。
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
(避難所の)リーダーになった人にはものすごい負担がかかる。それを交替するとか、何人かで分担するというのはなかなか難しいところがあるのだろうか。
―――永井雅子氏(神奈川県保健福祉局保健医療部健康増進課技幹)
おそらく(避難所運営の)最初の段階では、誰かが強いリーダーシップを取らなければまとまることができない。しかし、ある時期が過ぎて少し安定してきたら、少しルールを変えてそこに避難しているみんなで自治を作っていく、そういう力が必要だと思う。たぶんそういう訓練はしていない。私たち自身も。(永井さんが派遣されていた地域の避難所では)自治のなかでいろいろと話し合いながら、掃除係や食事係を持ち回りで分担しようということがやっとできたのは臨時の町の職員さんが来た頃、そこで少し整理ができた。それはやはり公的なところが入ってきたことでできた部分だと思う。
―――コーディネーター:吉井博明氏(東京経済大学コミュニケ-ション学部教授)
森さんは秦野市とうまく連携しながら「公」がやる部分と地域がやるべき「共」の部分を調整してやっていらっしゃるが、このポイントは何か?
―――森 清一氏(はだの災害ボランティアネットワーク副代表)
秦野市の場合、各自治会が避難する避難所は決まっている。避難所については、自治会と行政と管理者(学校)との3者が集まって避難所運営委員会を作るという規則がある。はじめは体育館を避難所として使い、体育館がいっぱいになればどこの自治会は何年何組の教室を使うなど、事前に避難所ごとに自治会の場所割りを決めている。市も地区配備隊といって避難所(小学校や中学校)の周辺に住んでいる方をそこの避難所に入れることにしており、そのなかの一人が隊長のような形で鍵を持つことになっている。だから実際の時もうまく機能するのではないかと思う。リーダーは自治会のなかの人がトップを務めて、行政はその下につくという形だ。
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(取材・文:高崎美智子)