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「心はてんでんこにしないで」―――神奈川県地震災害対策フォーラムにて(1)

2012年2月08日  10時09分

2月3日、「神奈川県地震災害対策フォーラム」がかながわ県民センター(横浜市神奈川区)で開催されました。今回は「災害発生時における地域力の発揮」をテーマとして、首都圏で今後起こりうる大規模災害に備えて私たちには何ができるのか、東日本大震災の教訓を踏まえたさまざまな視点から災害時における「自助・共助・公助」の役割や日頃の備えについて理解を深める機会となりました。 

前半の基調講演では、神奈川災害ボランティアネットワーク代表の植山利昭氏が東日本大震災ボランティアステーションの活動状況や、災害に備えた「自助・共助・公助」の取り組みを説明しました。後半のディスカッションでは、遠野まごころネットの多田一彦代表もパネリストとして登壇。多田代表は「津波が来たらまず、大事な人を連れて一緒に逃げること。大切な家族を助けるならば心はてんでんこ(ばらばら)にしないで欲しい」と熱く語りました。約2時間にわたるフォーラムのなかで、今回は神奈川県知事の黒岩祐治氏による冒頭挨拶と遠野まごころネット多田代表の話の要旨をご紹介します。

神奈川県地震災害対策フォーラム

 ■神奈川県知事 黒岩祐治氏     

もうすぐ3.11から1年が経つ。当時私は厚生労働省の地下1階にいて、これから予防接種部会が始まるという時に地震がきた。それから1年が経とうとしているなかでも、これだけ大きなことになっている。また、最近は直下型地震がいつ来てもおかしくない状況だといわれる。災害に対する備えをどこまでやるべきか、できることは徹底してやっておかなければならない。私も知事になって被災地に行ったが、実際に状況を目の当たりにするともう二度と想定外とはいえない。どんなに厳しい現実であろうとも、そこまで想定してそれに対してどう備えるかということをやらなければならないと思う。そのなかで神奈川県の津波浸水予測図も公表した。これを見ると衝撃的だが、想定した上でどう備えるかだ。 

防災は大事なことだが完全に防ぐことは無理だ。減災、できる限り災害を減らすためにはどういうことが大事か、繰り返しみなさんと知恵を絞るしかない。神奈川県においても有識者による地震災害対策検証委員会で必要な対策を検討しており、本日コーディネーターとして参加される吉井博明教授にも御協力頂いている。こうした検討の結果、県民の方々のご意見を踏まえて4月をめどに、本県における地震災害対策の基本となる県地域防災計画の修正を行う予定だ。県としてやるべきことは徹底的にやりたいが、それだけではなかなかうまくいかない。災害に強くなるには「自助・共助・公助」が必要だ。 

本県では昨年4月に神奈川災害ボランティアネットワークと県社会福祉協議会との三者でかながわ東日本大震災ボランティアステーションを立ちあげ、被災地へのボランティアの派遣、支援情報の収集や発信などに取り組んでいる。(これまでに)170台を超えるボランティアバスを派遣し、ボランティアの拠点として岩手県遠野市に「かながわ金太郎ハウス」を設置した。ここに派遣したボランティアの活動の調整は遠野まごころネットにお願いしており、その代表を務める多田一彦さんにも本日はパネリストとしてお越し頂いた。県の施策にも具体的に協力を頂いている方々のお話をおおいに参考にして、いざという時にどうするかという備えをできる限りのところまで行うひとつのきっかけにしたいと思う。

 

■遠野まごころネット 多田一彦代表

今までの(基調講演などの)話のなかで、「津波てんでんこ」という言葉が出てきたが、実際にそのような状況になった場合を考えてみると、なかなか家族を置いて勝手に逃げることなんてできない。私は「てんでんこ」という意味は勝手に逃げることではなく、一緒に逃げることだと理解している。逃げようと言ったら「いや、行かねえ。そんなことしなくていい」と言わないで、すぐに反応すること、そうすると一緒に逃げることができる。気持ちをてんでんこ(ばらばら)にするなということではないかと思う。 

神奈川県地震災害対策フォーラム 

 今回の地震が来た後に防波堤に(津波を)見に行って亡くなった人がたくさんいる。そういう人は置いていかないと家族まで巻き込んでしまう。自分のそういうことではなく、最も大切な家族を助けるのであれば気持ちをてんでんこにしないで一緒に逃げるのが「てんでんこ」ではないかと思う。私のいとこにも逃げないで亡くなった人が一人いる。一人は偶然にも逃げないでいたが、ユニットバスが家から分解されて流され、3階までユニットバスが浮いたことで窓から助け出されたそうだ。気持ちをてんでんこにしないで一緒に逃げる、それは当たり前のことだ。「自助・共助・公助」についても当たり前のことをふつうにやることだと思うが、そこのところが本当に難しい。 

もしも神奈川で震災が起きたらボランティアや誰かが助けに来るなどできない状況かもしれない。東北の時はライフラインや交通網が遮断されたため来ることができなかったが、たぶん(首都圏で震災が起きた場合は)入ってくることを禁止されるのではないか。それだけすごい状況になりかねないと思う。だから今回の震災のことも日本中、世界中が当事者として考えていかなければならないと思う。遠野は本当にみなさんの力のおかげで活動ができている。 

万が一、そういうこと(大震災)が起きた時は見に行こうとか大丈夫だとかそんなことは絶対に考えないで、まず大事な人を連れていちもくさんに逃げて欲しい。だから普段歩く時も逃げる場所を見ながら歩いたほうがよい。遠野は山だらけだが、ここには山がない。そのようなことも日頃から考えておいてもらいたい。陸前高田でも高いビルに逃げれば助かったのに、道路を一生懸命に山の方向に逃げて亡くなられた方もいる。その時に何が起きていたかはまだ私もうまく言えない。(震災当時に関する情報は)これからどんどん世の中に出てくると思うが、そういう悲劇はできるだけ繰り返したくない。だから心をてんでんこにしないで一緒に逃げる、当たり前のことを普通にやるということを災害の時には心がけて頂きたいと思う。 

(取材・文:高崎美智子)

「陸前高田市広田町大野地区のコミュニティ施設設営事業」は 「平成23年度(復興支援)被災者支援拠点づくり活動補助事業」の 助成金の補助をいただいています。